合理的な愚か者の好奇心

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寅次郎の恋、成績は2勝0敗33分け

男はつらいよ」全48作を通して車寅次郎は、振られ振られてなんと35人のマドンナから振られ続けたことが、あたかも常識であるかの如く喧伝されております。(マドンナは純計で36人ですが、後藤久美子は満夫の恋人なので除外してカウントします)

しかし、よくよく全作を見直してみますと、この常識は、大変な間違いであることがわかります。相当の寅さんファンでも犯しがちな誤りではありますが、子細に映画「男はつらいよ」を見通してみますと、実際には寅さんはほとんど振られていないことがわかります。

もっとわかりやすく申しますと、なるほど寅さんはほれっぽい性格で、35人もの様々なタイプのマドンナに毎回思いを寄せました。しかし、意外なことに、寅さんは35人のマドンナの誰に対しても、一度たりとも自分の思いを告白したことはないのです。

現実は、ほとんどの場合、寅さんが告白する前に、マドンナが他の男性と結婚してしまったり、あるいは寅さんの前から姿を消してしまうだけ(あるいは、寅さんの方から旅に出てしまうだけ)なのです。

したがって、マドンナが面と向かって寅さんの愛を拒絶したことなど、実は一度もないのです。

そういう意味で、勝敗として公正に表現するとすれば、敗北としてカウントすべきものではなく、引き分けに区分することが適当だと言えます。

しかし、驚くべき事に35人のマドンナのうち例外としてたった2人だけ、寅の告白がないままに、「寅さんと結婚してもいい」と自らの意志で、言ってくれたマドンナがいます。(この2人の場合でも「結婚したい」ではなく「結婚してもいい」でして、「も」がついているのが実は相当微妙なニュアンスではありますが・・・)

第10作(昭和47年)の「寅次郎夢枕」におけるお千代坊(八千草薫)と、第15作(昭和50年)の「寅次郎相合い傘」におけるリリー(浅丘ルリ子)です。

この結果、寅次郎の恋の公式記録ということになりますと、決して35戦全敗ではなく、2勝0敗33分けと表現することが正しいのです。寅の名誉のために声を大にして申し上げたいと思います。

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今回は、このたった二回の例外ケースのうち、八千草薫の寅に対する告白の場面をご紹介します。

場所はおなじみ亀戸天神の池に張り出した橋の上です。

なお、八千草薫の役の設定は、結婚に失敗して柴又に帰ってきた寅の幼なじみで、帝釈天の側に美容院を開業して間もない、というものです。

八千草「私ネ、寅ちゃんと一緒にいると~、なんだか気持ちがホッとするの。寅ちゃんと話していると、あぁ~私は生きているんだな~ってそんな楽しい気持ちになるの。寅ちゃんとなら一緒に暮らしても・・・って、今ふっとそう思ったんだけど・・・」

寅(びっくりして座り込みながら)「ジョッ、冗談じゃない?そんなこと言われたら、誰だってビックリしちゃうよ。あはははは・・・」

八千草「冗談じゃないわ!(寅をしっかりと真剣に見つめる)」

(ビックリして後ずさりする寅)

八千草「(ため息をつきながら)うそよ!やっぱり冗談よ!」

寅「そうだろ!冗談に決まってるよ!」

(ガクッと腰を落としてホッとした表情の寅)

八千草「じゃ、そろそろ帰りましょうか?」

寅「そうね、帰ろうか」

八千草「買い物があるから、寄り道するわ」

寅「う~ん」(1人残る寅)

場面代わっていつものラストシーンである正月のとらやの団らん。

八千草が正月の挨拶に来ている。寅は例によって旅行中。

おいちゃん「お千代坊(八千草の役名)もそろそろ嫁さんになったらどうだい?」

おばちゃん「そうだよねぇ~、強がり言ってないでさ」

八千草「本当よ、もう~結婚なんてこりごりよ」

おばちゃん「何言ってんだよ、まだ若いくせに、本当だよっ」

おじちゃん「なっ、寅でどうだい? わっはははははは」

八千草「どうしておかしいの? 私、寅ちゃんとならいいわ」  一同「えぇ~っ」

八千草「でも、だめね、振られちゃったから・・・」

たこ社長「あ~っ、びっくりした!俺、本当かと思ったよ!おい!」

八千草「本当よ!」

さくら「だめよ!そんなこと言ったら、お兄ちゃん、本気にするわよ!」

八千草「(静かに)冗談じゃないのよ」

たこ社長「またまた~」

以上です。

(ところで、いつも疑問に思うんですが、この作品に出てくる柴又帝釈天のすぐ側にあるはずのくだんのお千代坊の美容院はその後どうなったのでありましょうか?その後の作品に一度も出てこないんですよね・・・)

第15作「寅次郎相合い傘」におけるリリーの告白につきましては、かなり長くなりますので、次回ご紹介いたします。