合理的な愚か者の好奇心

団塊おじさんの "見たぞ! 読んだぞ! 歩いたぞ!"

父娘問題についての疫学的分析

とまぁ、そういうわけで、吉永家の父芳之と次女小百合の間の、ほとんど生涯をかけた相克は、大変深刻なものであったろうことは、吉永家からもれ伝わってくるかすかな情報からでも十分伺われました。
とりわけ私にとってどうしても理解できない謎だったのは、小百合の度肝を抜くようなストイックでむやみやたらな勉強エネルギーがどこに由来するのかという問題でしたが、敵対する父娘関係から読めば、思いのほか容易に理解できるような気がします。
すなわち、どうしようもなく運がないのか、それとも無能なのか、事業の失敗を繰り返すだめな父親にとってのほとんど唯一と言ってもいい生きる誇りは、きっと東大法学部という学歴にあったのではないかと思うのです。小百合は、父親のこの最大の誇りにターゲットを絞って、攻撃をかけようとしたのではないでしょうか。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、小百合がやみくもな勉強エネルギーにより、誰の力も借りずに独力で早稲田大学に合格し、第二文学部を主席で卒業することは、父親が家庭内で示しえた唯一の誇りとも言える「学歴」を跡形もなく粉砕しつくすことにつながったような気がします。
非常に残酷な形で、父芳之のプライドは確実に崩壊していき、小百合と岡田太郎の結婚に伴う両親との絶縁によって、完成させられてしまったような気がします。

小百合の場合は、吉永家の特殊事情もあって父娘の相克は不幸にして相当長期間かつ深刻なものとなりましたが、この問題は吉永家に限ったものではなく、私の経験では、娘が思春期を迎えて以降かなり長期間にわたって父親との関係が疎遠になる・・・・ いやもっと具体的に申し上げますと、娘が一方的に父親に対して嫌悪感や激しい怒りの感情を持つことは、多かれ少なかれほとんどの普通の家庭にあてはまる事実だと思われます。
我が家がかなり先鋭な形でそうでしたし(なお、今は修復しましたので、ご安心ください)、私の友人や友人の娘さんたちなど手当たり次第に尋ねまわっての統計的感触では、ほぼ90%の確率で父娘関係に当てはまる一般的な公理です。

父親にとっては娘というものはかわいくて仕方がないものですし、娘を守るためには命を張ってもいいと思っている父親は星の数ほどおりますので、娘からある日突然示される「理由なき一方的敵意」というものは父親にとってあまりにも残酷でやるせないものです。

ではなぜ、90%以上の確率の一般性を持ってそのような残酷な試練を神は父親に課すのでありましょうや? これには理由があるのです。
私は、「神の摂理」と言うべきひとつの仮説に到達しました。
すなわち、こういうことです。
父親の娘への愛情は、計り知れないものです。これに対して、思春期に達した娘の側も父親の愛情に応えて愛情を持ってしまいますと、インセクト・タブーすなわち近親相姦のリスクが容易に生じてしまいます。これは人類の存続にとってきわめて危険なことなんですねぇ。したがって、このリスクを確実に遮断するために、娘の側だけに神の意思として、「娘の成長期になると自動的にスイッチが入って父親に嫌悪感を抱くように作動する遺伝子」が、そっと埋め込まれているに違いありません。
残酷だよなぁ~(ま、父親にとってなんですが・・・)。しかし、人間と言うものは、本当にうまくできているんですねぇ。

なお、この「父親嫌悪症の遺伝子」の効力は、どのくらい長く有効なのかと言う問題が次に重要となるわけですが、これも私の疫学的調査では、概ね娘にカレシができるか、遅くても結婚するまでのようであります。

そうした意味で、吉永家の場合、芳之氏にとってはちょっと残酷すぎるほどに異常に長くかかってしまったような気がします。