合理的な愚か者の好奇心

団塊おじさんの "見たぞ! 読んだぞ! 歩いたぞ!"

宝来屋からの妄想(散歩のコツ)

今回は、私の趣味である都内長距離散歩がなぜそれほどおもしろいのかという問題につきまして、薀蓄を披露したいと思います。
散歩を面白くするためには、実はちょっとしたコツがあるのです。コツといいましても、それほど難しいことではありませんで、いわば「考えるクセ」とでも言うべきものなのであります。「考えるクセ」では、わかりにくいと思うのですが、要するに、自分が持っている潜在的な感性を最も鋭敏に研ぎ澄まして、想像力を極大化することが、コツなのであります。
余計わからなくなってしまったかもしれませんので、わかりやすく具体的な例を挙げて説明したいと思います。

s-DSC00710 たとえば西新宿の裏道を今日の散歩コースに選択するとします。
ブラブラ歩いていると、写真のような中華料理店がありました。店の名前は「宝来屋」といいます。
この中華料理店を一瞥したところで、問題の想像力(または妄想力ともいいます)を極大化するわけです。以下のように、際限のない疑問や興味がモリモリわきあがってきます。

●相当古そうで危なそうな建物だが、何年ぐらい経っているのだろうか?
●なぜ立て替えないのだろうか? 金がないのか? もうからないのか? 亭主がギャンブル好きで金がないのか? 道楽息子がいるのか? 欲がないのか?
●下が店舗で、上が住居? いやむしろ、全体が二階家のうち、一階の一部だけが店舗というべきだろう。してみると、住居部分は、想像以上に広そうだ。何人家族だろうか?
●金持ちか否かは別として、相当長くラーメン屋をやっているようだ。ということは、地元の固定客が多いということを意味する。ということは、「うまいはず!」ということになる。

ここで、中へ入ってみます。
カウンター席6席、テーブル席4人分、合計定員10人の店で、70歳ぐらいのじいさんと、60歳ぐらいのおばさんがカウンターの中にいる。
ここから、また妄想が始まります。

●じいさんは、かなりやせており、動作も超スロー。きっとそれほど遠くない過去に大病をした経験がありそう。
●ほとんど、おばさんが一人でラーメンを作っている。愛想はないが、手早く、料理の腕はよさそう。おそらく二人は、夫婦と思われる。住居の広さからして、子供は最低二人はいたが、今は独立しているのだろう。
●夫婦二人だけで暮らしていかれれば十分と考えており、建物を建て直そうという考えもない。したがって、不必要にもうけても仕様がないと思っているはず。
その結果、タンメンはたったの450円、味もかなりうまい!! したがって、結構客は多いという当然の連鎖となる。
●おばさんは(こういう店にありがちなように)愛想はないが、応対は機敏で要領を得ているので、頭がよさそうだ。したがって、子供たちにもそこそこの教育を与えた上で、独立させたのだろう。
子供たちは、時々夫婦を尋ねてきて、「そんなにラーメン屋で苦労してがんばることはない、お父さんも大病したことだし、ここらで引退したら・・・」などとやさしく声をかけるが、夫婦は「二人だけで食べる分はかせぐんだ。贅沢する気もない。お客さんが来てくれる限りは続ける。」と答えているに違いない。

妄想がここまでたどり着いたところで、タンメンを食い終わった。量も十分。味もよし。図らずも、偶然の散歩で、穴場を探し当てた満足感と満腹感で幸せな気持ちになる。
水を飲み、一息おいて元気よく「ごちそうさま!!」と言葉をかけて、財布を出す。おばさんが予想以上にテキパキと550円のおつりをくれる。これまた予想以上に若い声で「ありがとうございました」と聞こえた。まだまだ、ラーメン屋を続けられる甲斐性を感じさせる。
外に出たところで、おじさんとおばさんのこれまでの人生の哀歓とこれからの人生への気概を感じ、ささやかな感動を覚える。

かくのごとく、散歩でたまたま通りかかったラーメン屋に入り、タンメンを食い終わって外に出るまでのわずか30分ほどの間に、これだけの情報と幸せを感じることができるわけであります。

以上、「散歩のコツ」でありました。