合理的な愚か者の好奇心

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幻の「洲崎パラダイス・赤信号」を見る

このブログでかつてご紹介しました名匠川島雄三監督の幻の作品「洲崎パラダイス・赤信号」(昭和31年作品)をようやく見ることが出来ましたので、ご報告します。この映画は、今はなき戦後有数の歓楽街洲崎パラダイスの雰囲気を伝える秀作の呼び声高い作品でしたが、なにしろレンタル店などには全く見つかりませんで、ほとんどあきらめておりました。本日折りしも川島雄三特集を組んでおりますWOWWOWで放映してくれました。そういった意味では、正真正銘の「幻の名画」なんです。
ということで、今回は「洲崎パラダイス・赤信号」の鑑賞記録です。思いつくままに書く不精をお許しください。

Susakipara ●主演はご覧のように、新珠三千代三橋達也勝鬨橋の欄干にもたれる二人が、今日はどこに泊まるのかというその日暮らしの相談をしているシーンから始まります。
この映画のテーマはどうやら、この男と女の腐れ縁を描くことにあるようなんですが、私にとってはそんな事はどうでもいいことです。
丁度通りかかった北砂町行きの都バスに当てもなく乗ってしまった二人は、これまた衝動的にバス停「洲崎弁天町」で降ります。新珠は昔洲崎パラダイスの中で働いていたのです。
新珠が再び「中」に落ちていく寸前で、写真のネオンのすぐ前の「外」の飲み屋千草の女将(轟由起子)に二人は世話になります。
「洲崎パラダイス」のネオンは、洲崎というふたつの漢字の中に「パラダイス」と書いていたんですねぇ。興味深いです。
●助監督は、なんとこれまた名匠の今村昌平が努めております。
●一説には、この映画はほとんどがセット撮影であるので、当時の洲崎の様子はあまり出てこないといううわさがありましたが、それは誤りであったようです。確かに、丁寧なセットを作ったようですが、昼のシーンはほとんど野外ロケであったことがうかがわれ、今とは全く違う洲崎の情景がふんだんに見ることが出来ます。これだけでも、この映画はすばらしく貴重な映画です。
たとえば、当時の洲崎神社がしっかりと出てきます。今は銘板しかない洲崎橋も現役の橋としてたっぷり見ることが出来ます。沢海橋ももちろんです。歩行者がすれ違うのがやっとの秋木橋は昭和30年3月竣工ですから、できたばかりの新しい橋として登場します。

●昭和31年頃の洲崎は、川には浚渫船が行き交い、洲崎パラダイスのネオンの下には埋め立てのために土砂を積むトラックが頻繁に通る、埋め立て工事真っ盛りの頃だったようです。
●映画の舞台、飲み屋の「千草」は、歓楽街洲崎パラダイスの入り口にあって、「中」で遊ぶ客が繰り出すための度胸付けにまず酒をあおっていく店のようです。
三橋達也のとりあえずの働き場所として、そば屋「だまされ屋」の出前持ちの仕事が与えられます。このそば屋に、注目すべき二人の従業員が出てきます。
ひとりは、出前持ちの先輩として出てくる小沢昭一です。当時、若干26歳。その後の大成を予感させるように、出前持ちといえども普通には演じません。何か印象に残る出前持ちです。
もう一人は、そば屋のレジを預かる純情可憐な女性、そうです20歳の芦川いづみです。
いやはや、昔の映画にはこういう眼福が隠されているんですよねぇ。
眼福と言えば、今や癖のあるおばあちゃん女優として隠れもなき田中筆子(当時40歳)が洲崎パラダイスに舞い戻ってきた女として出演しています。(あっ失礼、これは眼福とは言いませんでした。)

●我々にとって新珠三千代と言えば、「氷点」における冷たい氷のような母親、「細腕繁盛記」におけるけなげな旅館の女将などによってもたらされる印象が強かったんですが、彼女の原点はこの作品にあったんですねぇ。意外にも相当の演技派とお見受けしました。