合理的な愚か者の好奇心

団塊おじさんの "見たぞ! 読んだぞ! 歩いたぞ!"

「おくりびと」の外国語映画賞は?

監督:滝田洋二郎、 主演:本木雅弘広末涼子
脚本:小山薫堂、  音楽:久石譲
32回モントリオール世界映画祭 グランプリ受賞
第81回米国アカデミー賞 外国語映画賞ノミネート決定[E:sign03]

Okuribito_2 気になっていたけれども、ずっと見る機会のなかった松竹映画「おくりびと」を見ました。
予想以上にいい映画だと思います。加えて、とってもおもしろい映画です。
プロットがいいですね。おっもしろいです。
何よりも助演陣のキャスティングが最高!! 最高!! もひとつおまけに最高!! この映画の成功の最大の要因はキャスティングの妙にあると思います。
山崎努の演技には、思想があります。
笹野高史(銭湯の常連客)は、エンディングで確実に泣かせる必殺の演技です。
余貴美子(事務員)が吉行和子(銭湯の女主人)と、イメージが似すぎていますが、ここはグッとこらえましょう。
モックンは、はっきり言って演技が上手な俳優ではありません。しかし、精一杯の演技で好感が持てます。おそらく彼の生涯の代表作となるでしょう。
広末涼子については、ひょっとすると「いつも褒めるじゃないか」とお叱りを受けそうですが、彼女の演技はやっぱりうまいと私は思いますよ。鼻にかかった甘え口調が気になるかも知れませんが、最近の若妻ってみんなあんなもんじゃないのかなぁ。

音楽は、言わずと知れた久石譲。この類の作品への音楽付けは、手慣れたものです。

ということで、おそらく日本アカデミー賞は、楽々と総取りするでしょう。
しかし、私は断言します。アカデミー賞外国語映画賞は絶対に取れません。
私は確信しています。

まぁ、そんなに力まなくても良いのですが、ではなぜ「おくりびと」はアカデミー賞を取れないのか[E:sign02]

山田洋次の「たそがれ清兵衛」や、昨年は「モンゴル」の浅野忠信があと一歩及ばなかったあの悲願の外国語映画賞を、取らせてあげたいのはもちろん山々なのでありますが、おそらくきっと無理でしょう[E:sign01]

まず第一の理由は、相手が悪い。
ライバルのノミネート作品は、ザ・クラス(フランス)、バーダー・マインホフ・コンブレックス(ドイツ)、レバンチェ(オーストリア)、ワルツ・ウイズ・バミール(イスラエル)の
以上四作品。

今年は珍しくいずれも前評判が非常に高く、問題作が集中した当たり年となりました。

第二の理由は、
この映画、原作良し! キャスティング良し! 音楽良し! いずれも非の打ち所がありません。しかし、映画はこうした要素だけではないのです。
感動させるいい映画には、カット毎に周到なサプライズが必要です。演技にも、せりふにも、カメラ割りにも、画面の隅々まで神経を研ぎ澄ませて、常に観客を驚かせそして緊張させる仕掛けが必要だと、私は思っています。
たとえば、北野武の映画などは、その好例で、極端なほどに全編にわたってサプライズを潜ませているのです。
山田洋次の「男はつらいよ」にも、よく見ていないと見逃しがちですが、たとえば画面の隅の町会の掲示板には、生活感のつまったよくできたビラが張ってあるはずです。
この映画には、いい映画に必須のそうしたサプライズが決定的に欠けているのです。

したがって、プロットはとってもおもしろいにもかかわらず、場面の展開がほとんど読めてしまうのです。展開が読めてしまうと、まるでありきたりの連続テレビドラマを見ているような感じであり、観客は途端に興ざめとなるのです。
残念です。